「働き方改革関連法」は2019年4月1日より順次施行され、「長時間労働の是正、多岐で柔軟な働き方の実現」と「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」の推進が図られています。
そこで脚光を浴びているのが、RPAによる業務の自動化です。
RPAを導入することで、働き方改革を推進したいと考えている方は、きっと多いでしょう。
今回は、RPAによる業務自動化の概要と、具体的にどのような業務が自動化できるのか解説していきます。
RPAとは
RPAとは「Robotic Process Automation」を略した言葉で、「ロボットによる業務自動化」という意味です。
主にPCでの事務的な業務を効率化するための技術で、ソフトウェアロボットを活用して作業工程を自動的に処理していきます。
具体的には、「どのような作業をどのように処理するのか」といった作業の手順や、作業に必要なファイルの所在などをロボットに記録することで、ロボットが高速かつ正確に作業を継続していくことができます。
RPAによる自動化が注目される理由
RPAが注目されてきた背景には、長らく続く日本の労働環境の変化と、生産性に関する問題があるといえます。
日本の労働環境の変化
中小企業庁による「第166回中小企業景況調査(2021年10-12月期)」によると、従業員数過不足DI(従業員数が過剰な企業割合から不足している企業割合を差し引いた値)は、
前の期から4.7ポイント減少となる-17.4ポイントと、3期連続してマイナス幅が拡大し、従業員数の不足感が強まっています。
従業員数過不足DIは、2010年から継続して低下し、2020年の前半にいったん回復を見せたもののコロナ禍も相まって引き続き低下傾向です。
産業別に見ると、サービス業、製造業、卸売業、小売業、建設業の全ての産業でマイナス幅が拡大しています。
この人手不足を打開する策として、RPAが注目されています。
生産性向上のため
公益財団法人日本生産性本部の「労働生産性の国際比較 2020」によると、OECD(経済協力開発機構)のデータに基づく2019 年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は、47.9ドル(4,866 円/購買力平価(PPP)換算)となっています。
これは、米国(77.0 ドル/7,816 円)の約6割の水準に相当し、OECD加盟37カ国中21位です。
名目ベースでは前年から5.7%上昇してはいるものの、主要先進7カ国との比較では、データが取得可能な1970年以降、日本は最下位の状況が続いています。
この他国と比べて決して高くない日本の生産性を向上させる理由でも、RPAに期待が寄せられているのです。
RPAで自動化できる業務は?
RPAで自動化できるのは「PCのみで完結できるルーチン化されている業務」です。
例えば「Webサイトの決済フォームやメールによる顧客からの注文処理」がそれにあたります。
顧客が商品を注文すると、購入者の顧客情報や購入された商品情報がデータベースに登録されます。在庫を確認した後、顧客には受注完了の連絡が、店舗には受注情報が通知されます。
このように、データベースとWebサーバ間で行われるデータのやり取りが、ある一定のルール下で繰り返し行われ、PC上で完結できる業務を、RPAによって自動化することができます。
RPAで自動化できる業務を部門別に解説
RPAの導入で自動化できる業務を部門別に解説します。
経理部門
経理部門はRPAで自動化できる定型作業が多く、RPA導入による効果が現れやすいといえます。これまで行っていた「手入力」をRPAで代行すれば、その手間が省けるとともにミスの発生頻度も減るでしょう。
売掛・入金業務
売掛金の処理や消込処理などがされたMicrosoft Excelのデータを、RPAによって自動で会計ソフトに仕訳入力することができます。入金確認後に行う担当者への一斉メール送信も自動化することが可能です。
買掛・支払業務
買掛金処理などを行ったMicrosoft Excelのデータを、会計ソフトに自動で仕訳入力することが可能です。また、定期的に取引している顧客などへの支払作業も効率化できるでしょう。
資産管理業務
固定資産などの償却期間を設定すると、償却開始の時や終了期間を迎えた際に、担当部門に向けてアラートメールを配信できます。また、棚卸状況を確認し規定値を超えているパラメーターを検出すると、自動でアラートを出すことが可能です。RPAで資産管理を徹底できます。
交通費確認業務
経費精算のためのデータ突合や仕訳入力をはじめ、支払先のチェックや社内マスタへの登録作業をRPAで自動化することができます。また、経費データ入力に用いるMicrosoft Excelシートの加工や、Web上の交通費精算ツールの内容確認や精算業務もRPAで自動化可能です。
営業部門
営業部門の仕事は商談や得意先訪問などの「社外業務」と、書類作成やフォローといった「社内業務」に分けられますが、RPAは、この「社内業務」を自動化することができます。
負荷が多く、慢性的に人材不足といわれる営業事務業務を、RPAの導入によりサポートすることが可能です。
販売状況調査業務
RPAを導入すると、販売状況の集計、ならびに集計結果のメール配信を自動で行うことが可能です。これにより、これまで集計やメール配信に費やしていた時間を、別の業務に充てることができるようになります。
定期的に発生する見積作成業務
取引先が多いなどの理由で、毎月膨大な数の見積書を作成している場合は、RPAを活用してはいかがでしょうか。
例えば、RPAを導入して、取引先への見積金額が入ったシステムから、必要なデータがMicrosoft Excelに自動で入力され見積書が完成する仕組みにします。
これにより早く正確に作業を進めることができ、ミスの発生を防ぐことも可能です。
受注管理業務
受注管理システムもRPAで自動化が可能です。
顧客からの注文が入ると、受注情報を自動でデータベースに取り込み、関連部門へメールを送信する、といった一連の流れが自動で行えます。
在庫や納期の確認作業などもRPAで自動化することが可能です。
人事部門
毎日の勤怠管理データから残業の多い社員を抽出する場合、社員全員の勤務データを洗い出すのには膨大な手間がかかります。残業時間削減のための作業で多くの時間を割いてしまっては本末転倒です。RPAの力で作業時間の短縮を図りましょう。
過重労働管理業務
RPAを活用することで、日々の勤怠情報を自動で収集・管理することができます。
年次有給休暇付与率や社保管理・届出状況も自動で全社的に把握でき、過重労働の恐れがある場合は、該当部門やスタッフに自動でアラートを出すことが可能です。
人事考課業務
評価実施案内や管理を自動化することで、各部門のスタッフおよび人事部門のスタッフが、作業を忘れることなく行えます。
評価会議をする場合も、複数の管理職のスケジュール調整や評価結果の集計、結果の資料化などが自動化可能です。
経営層向け報告書作成業務
RPAによって、毎月抽出した社内データの集計や、グラフ化も自動化が可能です。
報告書などの作成もスムーズにできる他、報告書の提出自体も自動化できます。
経営への状況報告が容易にできれば大きな業務効率化につながります。
総務部門
総務部門においても、RPAの導入で自動化できる業務は存在します。
反社チェック業務
RPAツールの中にはスクレイピング機能(Webからほしい情報を収集する機能)を実装することができ、この機能を用いると取引先企業名や担当者などの情報が更新されていないか、自動でチェックすることができます。
例えば、新しい取引先と契約や業務を行う際の反社チェック作業などで役立ちます。
定期的な書類作成
定期的に作成する報告書などの書類。
定型的な内容が多い場合は、書類の作成も自動化することが可能です。
購買・調達部門
購買・調達部門では、各商品・部品の在庫、仕入状況などを個別に検索・確認します。少量多品種生産が一般化する中において、その管理と事務処理の負担は高まるばかりです。
全ての業務をRPAによって自動化することはできませんが、データ検索や事務処理などの作業を自動化することにより、業務の負担を軽減させることができます。
メール発注業務
メールによる発注業務はいくつかの工程がありますが、
- 注文データの取り込み
- 受注管理システムへの入力
- メーカの注文Webサイトへの注文情報の入力
- 注文番号をコピーし保管
- 注文確認依頼メールを購買部責任者へ送付
といった業務をRPAによって自動化することができます。
なお、注文データが紙の場合はOCR(画像データのテキスト部分を認識し、文字データに変換する光学文字認識機能)と併用することで、自動化が可能です。
発注管理業務
注文書と在庫管理システムの内容突合も、RPAで自動化することができます。
業務自体の負担軽減はもちろんですが、発注管理業務の正確性が向上することにより、過剰在庫や機会損出を未然に防ぐことができます。
その他
上記にあげた部門の他にも、RPAの導入で、自動化できる業務は存在します。
例えば、マーケティング部門ではアンケート調査の配布や集計をRPAの導入で自動化することができます。
製造・販売部門ではPOSデータの収集や形式変換など、情報システム部門ではIT資産の棚卸しリストの作成などで、RPAを活用できるでしょう。
RPAで自動化する3つの大きな強み
RPAを導入し業務を自動化すると、3つの大きな強みを得ることができます。
その強みを解説します。
人材不足を補える
例えば、RPAの導入で事務業務を自動化できた場合、それまで事務業務に費やしていた時間を他の業務に充てることができます。
つまり、人員不足・人材不足があったとしても、不足している部門へ人員や人材を回せるようになるのです。
24時間365日働ける
ロボットは人間と違い24時間365日稼働することができます。
人間が休んでいる間でも業務を進められることは、大きな強みといえます。
人的ミスがなくなる
ロボットはあらかじめ決められた手順を繰り返す単純作業に長けています。
しかも、人間よりも早く正確に行うことができます。
一方、人間が単純作業を繰り返した場合、やはりどんなに注意していてもミスが1つ2つ出てくるものです。
RPAの導入で人的ミスがなくなり、しかも作業スピードが上がるとなれば、これほど心強いことはありません。
まとめ
現在の日本が抱える「労働力不足」「生産性の低さ」を打開する策としてRPAが注目されています。
RPAは、作業の手順や、作業に必要なファイルの所在などをロボットに記録することで、ロボットが高速かつ正確に作業を継続していくことができ、それは、業種を限定することなくさまざまな面で活用することが可能です。
今回RPA導入により自動化できる業務を部門別に解説しましたが、ぜひ参考にしていただいて、RPA導入を検討していただきたく思います。
上手く活用すると、「労働力不足の改善」「生産性の向上」を図れるだけでなく、昨今推進されている「働き方改革」にも寄与できるでしょう。