日本は、世界から見てDXが遅れている国といわれています。
2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」により、日本国内において、ようやくDXが注目され始めました。
しかしながら、DXの市場規模の現状はどうなのか?なぜ日本はDXが遅れているのか?これからDX実現を試みる企業はどのような変革が必要なのか?非常に気になるところです。
本記事では、DXの市場規模の現状や課題、DX市場規模拡大のためにどう取り組めばいいのかなどをお伝えします。
DX市場規模の現状をしっかり捉えて自社がどのようにDXを実現すればいいかを考えるきっかけになれば幸いです。
DXとは?
DXとは、「Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション」の頭文字を取った言葉で、「デジタル化により社会や生活の形・スタイルが変わること」を意味します。
中小企業庁では、次のように説明されています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
出典:中小企業庁「ミラサポplus」(https://mirasapo-plus.go.jp/hint/15869/)
デジタル化によってトランスフォーメーション(変革)させるのは、製品、サービス、ビジネスモデルという「企業の売り物」だけでなく、業務、組織、プロセス、企業文化・風土という「企業組織・企業活動」におよびます。
企業がいち早く自社の外部環境・内部環境の変化を捉え、デジタルの力を使って最適な経営戦略に導くことにより、新しい価値を創出することがDXを推進していく上で重要なカギとなります。
ICT投資額でみるDX市場規模
まず始めに、日本のDXの市場規模について、DXに必要な企業のICT投資額という観点から米国と比較してみましょう。
令和3年版 情報通信白書「序章 我が国におけるデジタル化の歩み」に記載されているOECD統計によると、1989年の日本のICT投資額(名目)は、14.3兆円であり、その後、1997年の20.0兆円をピークに減少傾向。そして、2018年は15.8兆円にとどまっています。
一方で、米国は、1989年に1,476億ドルでありましたが、2000年代前半及び2009年を除き、増加傾向が続いております。2018年には6,986億ドルとなっており、ここ30年間で4.7倍以上に増加しています。
このように日米のICT投資額の推移から、日本のICT投資額は米国よりも大幅に少ないため、DX市場規模拡大に遅れを取っていると言えるでしょう。
【出典】令和3年版 情報通信白書「序章 我が国におけるデジタル化の歩み」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n0000000.pdf
DX市場規模拡大に日本が遅れている6つの理由
そもそも日本がDX市場規模拡大に遅れを取っている理由は何でしょうか?
一部のデジタルインフラ整備などについては世界的に見ても進んでいるものの、全体としては大幅に遅れを取ることになったのは、特に何か一つのことが原因というわけではありません。
様々な理由が複雑に絡み合うことで、DX市場規模拡大に遅れを取っているのではと考えられており、その理由は、令和3年版 情報通信白書「序章 我が国におけるデジタル化の歩み」において6つ挙げられています。
【DX市場規模拡大に日本が遅れている6つの理由】
①ICT投資の低迷
②業務改革等を伴わないICT投資
③ICT人材の不足・偏在
④過去の成功体験
⑤デジタル化への不安感・抵抗感
⑥デジタルリテラシーが十分ではない
一つ一つみていきましょう。
①ICT投資の低迷
日本におけるICT投資は、前章のとおり、1997年をピークに減少傾向にあります。また、ICT投資の8割が現行ビジネスの維持・運営に当てられていることから従来型のシステム(レガシーシステム)が多く残っており、その頃の考え方やシステム構造から抜け出せていないと言われています。
システム開発についても、大企業を中心として、最初に綿密な計画を立てた上で、要件定義から設計・開発・テスト・運用に至る工程を順番に行うウォーターフォール型が中心で、変化を前提としたアジャイル開発の導入が遅れています。
これらを背景として、日本では、オープン化やクラウド化への対応、業務やデータの標準化が遅れ、業務効率化やデータ活用が進んでいない状況にあると考えられます。
②業務改革等を伴わないICT投資
日本のICT導入は業務の効率化等の手段として用いられることが多いと言われています。
情報システムのコスト削減圧力に加え、情報システム開発はコア業務ではなく、本業を重視すべきという考え方が根強くあり、情報システムの構築・運用を全面的に外部企業に依存することが多くなるためです。
したがって、委託元企業にノウハウやスキルが蓄積されないという課題が生じています。
ICT投資が効果を発揮するためには、業務改革や企業組織の改編等を併せて行うことが重要とされていますが、外部委託に全面的に依存することで、業務改革等をしない形でのICT導入となり、十分な効果が発揮できなかったのです。
そのため、デジタル化に向けた更なるICT投資が積極的に行われなかった可能性があります。
③ICT人材の不足・偏在
DXの推進には、ICT人材が不可欠です。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査結果(2019年度)によると、IT人材の量について、「大幅に不足している」又は「やや不足している」という回答の合計は、89.0%にも達してます。
また、時代によって求められるICT人材が異なり、現在では、情報セキュリティなどの高度なICTスキルやアジャイル開発など新しい分野に対応できる人材が強く求められていますが、IPAの調査では、IT人材の質についても、「大幅に不足している」又は「やや不足している」という回答の合計は、90.5%にも達しています。
このように、日本のICT人材は、量も質も十分ではないとユーザ企業に認識されています。
また、その人材についても、我が国では、外部ベンダへの依存度が高く、ICT企業以外のユーザ企業に多く配置されており、ユーザ企業では、組織内でICT人材の育成・確保ができていません。
④過去の成功体験
日本は、高度経済成長期を経て、世界有数の経済大国となりましたが、ICT関連製造業についても生産・輸出が1985年頃まで増加傾向にあり、「電子立国」とも称されていました。
2000年代に入ってからは、ICT関連製造業の生産額が減少傾向に転じ、2000年代後半には輸出額も減少傾向にありますが、それ以前の成功体験により、抜本的な変革を行うよりも、個別最適による業務改善が中心となり、デジタル社会の到来に対応できていないと言われています。
ただ、そのような現状においても、国民生活や社会活動を維持できており、デジタル化の必要性を強く感じていないという面もあります。デジタル化の必要性を強く感じていない理由は、技術(デジタル)で解決できることを人材の質・量で解決しているからとも言えます。
⑤デジタル化への不安感・抵抗感
デジタル化に対する不安感・抵抗感を持つ人が一定数存在しています。
例えば、デジタル化により、従来は対応が不要であった情報セキュリティなどの新たな脅威が生じています。
総務省が実施した調査によると、デジタル化が進んでいない理由として最も多く挙げられたのが「情報セキュリティやプライバシー漏洩への不安があるから」(52.2%)でした。
また、パーソナルデータの企業等による不適切な利用、インターネット上に流布する偽情報への対応、慣れないデジタル操作等への習熟など、様々な要因により、デジタル化に対する不安感・抵抗感が生じる場合があると考えられます。
⑥デジタルリテラシーが十分ではない
情報セキュリティやインターネット上の偽情報等の問題に対応するには、情報リテラシーが必要となります。
総務省が実施した調査によると、デジタル化が進んでいない理由として2番目に多く挙げられたのが「利用する人のリテラシーが不足しているから」(44.2%)でした。
このようにデジタルリテラシーが十分ではないと考えられることから、デジタル化推進に対して消極的になる場合があると考えられます。
【出典】令和3年版 情報通信白書「序章 我が国におけるデジタル化の歩み」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n0000000.pdf
3か国企業におけるDXの課題
DX市場規模拡大において、課題となるものはどんなものがあるのでしょうか?
日本、米国、ドイツの3か国企業におけるDXを進める上での課題を調査した結果がこちらになります。
①トップは人材不足
DX市場規模拡大において、課題となるものは「人材不足」です。
「人材不足」は日本、米国、ドイツ各国が上位に上がっている中、日本がダントツの1位となっています。
米国の1位は「費用対効果が不明」、ドイツの1位は「人材不足」になってますが、全体的に「人材不足」がDXをすすめる課題となることに間違い無いでしょう。
また、「令和3年版 情報通信白書のポイント」によると、ICT人材は2018年に約22万人不足しており、2030年には約45万人不足する見込みとされることから「人材不足」は今後のDX市場規模拡大に向けて重要課題と言えるでしょう。
②DX推進にあたって不足している人材とは?
では、3か国でも上位に挙がった「人材不足」について、具体的にどのような人材が不足しているのでしょうか?
次の「DX推進にあたって不足している人材」について不足しているかどうかを調査したところ、いずれの人材も「大いに不足している」又は「多少不足している」と回答した企業が、いずれの国でもほぼ6割以上となっています。
【DX推進にあたって不足している人材】
- DXの主導者
- 新たなビジネスの企画、立案者
- デジタル技術に精通している者
- UI-UXに係るシステムデザインの担当者
- Ai ・データ解析の専門家
他方、日本は他の2か国と比べて「そのような人材は必要ない」との回答比率が高く、「UI・UXに係るシステムデザインの担当者」、「AI・データ解析の専門家」については1割程度の企業がそのように回答しています。
日本は「人材不足」が課題であると言いながら、必要な人材について正しく認識していない面があると言えます。
③DX人材の確保・育成に向けた取り組み
最後に、DX人材の確保・育成に向けて、3か国の各企業はどのように取り組んでいるのかみてみましょう。
日本では「社内・社外研修の充実」を挙げる企業が多い一方、「特に何も行っていない」との回答比率も高く、社内の現有戦力で乗り切ろうとしている傾向がうかがえます。
一方で、米国は「デジタル人材の新規採用」、「デジタル人材の中途採用」、「関連会社からの異動・転籍」が他の2か国よりも多く、もともと雇用が流動的な国であるため、社内で不足する人材は外部から積極的に登用しようとする姿勢がみてとれます。
日本では、ICT人材がICT企業に多く配置されているため、社内の現有戦力だけで乗り切るのではなく、ICT企業からICT人材を確保したり、社内で育成することもDXの市場規模の拡大に一役買うことになるでしょう。
DX市場規模の拡大に必要な6つの変革ポイント
令和3年版 情報通信白書「第2節 企業活動におけるデジタル・トランスフォーメーションの現状と課題」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n1200000.pdf)によると、DX市場規模拡大に取り組む上で必要な変革ポイントについて6つにまとめられていました。
【DX市場規模の拡大に必要な6つの変革ポイント】
①社内の意識改革
②組織の改革、推進体制の構築
③実施を阻害する制度・慣習の改革
④必要な人材の育成・確保
⑤新たなデジタル技術の導入・活用によるビジネスモデルの変革
⑥既存システム(レガシー)の刷新
それでは一つ一つみていきましょう。
①社内の意識改革
デジタル化の波が押し寄せる中、日本の企業は、デジタル化による影響を認識しながらも、DXの実施に踏み切れていません。
それは、必要性を認識する人間が経営層や社員の一部にとどまり、社内全体で危機意識の共有が図られていないことも考えられます。
コロナ禍を契機としてデジタル化が加速する中、社内の意識を改革し、DXの必要性を共有することが何よりも重要であり、加えて、手段から入るのではなく、自社の事業や製品/サービスが抱える問題やその改善の機会を探索し、自社の問題を明確化することから取り組むべきでしょう。
②組織の改革、推進体制の構築
DXは、業務を単にデジタルに置き換えるのではなく、ビジネスモデルや組織、文化の変革を伴うものです。
したがって、最初は特定の部署に限定した取組であっても、企業全体を巻き込んだ取組に発展する可能性があり、DXを推進するための体制構築が重要となります。
日本は米国・ドイツと比べて経営層(社長、CIO、CDO等)の関与が少ないとされていますが、全社的な取組になるほど上層部による主導が重要と考えられます。また、専門組織を設置して主導する場合には、企業全体に関与できるだけの権限の付与も必要となってくるでしょう。
③実施を阻害する制度・慣習の改革
DXの実施を阻害するものとして規制・制度や文化・業界慣習の存在を挙げる企業は多いです。
法令に定められた規制・制度や業界横断的な慣習を一社の力で変えることはなかなか難しいですが、社内に限定した制度・慣習の変革は、上層部の判断一つで変革することが可能であります。
例えば、業務をデジタルで完結できない手続き(書面・対面・押印など)、リモートでの勤務を認めない就業規則、端末やデータの社外持ち出しを全面的に禁止するセキュリティポリシーなど、見直すべきポイントは随所に存在しています。
④必要な人材の育成・確保
前章でも課題として取り上げたように、デジタル人材の不足を指摘する意見は特に多いです。
DXの推進に必要な人材は、デジタル技術に詳しい人材だけでなく、ビジネスを理解する人材や、最近では、デザイン思考の重要性が指摘されるなど、UI/UXを意識したデジタルデザインができる人材も必要と言われています。これらを全て兼ね備えた人材が社内に存在することが理想ですが、現実には難しいと言わざるを得ません。
日本はDXの実施に必要な人材について、内部での育成を志向する様子がうかがえますが、他方、米国やドイツでは外部からの人材登用等で対応する傾向にあります。
今後、我が国でも外部のリソースを活用しながら取組を進める「オープン志向」が重要となるでしょう。また、高度なデジタル人材が育つような環境作りも重要となります。社会人になってから学び直すことでより高度な知識を獲得する「リカレント教育」も手法の一つとして有用でしょう。
⑤新たなデジタル技術の導入・活用によるビジネスモデルの変革
デジタル企業がデジタル技術を活用することで新たなコスト構造に適したビジネスモデルを構築することは、既存企業にとって大きな脅威となります。
それに対抗するには、既存企業の側も新たなデジタル技術を導入・活用することでビジネスモデルを変革させることが重要となり、日本企業は米国やドイツの企業と比べると、デジタル活用は不十分と言わざるを得ないといえます。
他方、新興国ではデジタルの普及が急速に進んだ結果、新たなデジタル企業が相次いで登場し、世界への進出を図っており、市場がグローバル化する中、国内外を問わず出現するディスラプターに対抗するには、デジタル技術を導入・活用することで新たな付加価値を付与する取組を進める必要があります。
⑥既存システム(レガシー)の刷新
レガシーシステムの存在がDXを進める上での障壁との意見もあります。
従来の業務の進め方を前提に構築されたレガシーシステムを刷新し、クラウド等のウェブ上に存在するリソースの活用を前提とした業務への改革が重要です。
従来のレガシーシステムの代わりに導入したシステムがまたレガシーとなることのないよう注意すべきでしょう。
まとめ
DXの市場規模の拡大を推進していくために、DXの市場規模の現状や課題、DX市場規模拡大のためにどう取り組めばいいのかなどを知っておきましょう。
DX市場規模拡大に日本が遅れている理由は6つ挙げられます。
【DX市場規模拡大に日本が遅れている6つの理由】
①ICT投資の低迷
②業務改革等を伴わないICT投資
③ICT人材の不足・偏在
④過去の成功体験
⑤デジタル化への不安感・抵抗感
⑥デジタルリテラシーが十分ではない
また、DX市場規模拡大に取り組む上で必要な6つの変革ポイントはこちらになります。
【DX市場規模の拡大に必要な6つの変革ポイント】
①社内の意識改革
②組織の改革、推進体制の構築
③実施を阻害する制度・慣習の改革
④必要な人材の育成・確保
⑤新たなデジタル技術の導入・活用によるビジネスモデルの変革
⑥既存システム(レガシー)の刷新
企業が直面する状況によって、変革すべきポイントも変わるものでありますことから、6つのポイントを参考に企業自身で必要な変革について検討することが重要です。
このように自社のDX実現に取り組むことで、「人材不足」をはじめとする課題を乗り越え、日本のDX市場規模拡大に繋がることでしょう。